2018年6月、働き方改革関連法が成立したことによって、介護業界でも同一労働同一賃金・年次有給休暇年5日取得の義務化・時間外労働の上限規制などを遵守することとなりました。
基本給や賞与、手当などの待遇が正社員と異なることに不満を抱えていた非正規雇用の方にとって、同じ労働で同じ水準の賃金になることは喜ばしいことでしょう。
しかし雇用する介護施設側にとっては、それまで平均年収が低かった非正規雇用の給与が正社員と同じ水準になれば、経営に大きな変化を及ぼす可能性は高くなります。
非正規雇用で働いている方の多くは、仕事に対する評価が低いことや長時間労働に不満を抱えています。
それに加え、正規の雇用でないことで不安定な状況に置かれていれば、さらに不満は高まっても仕方がないことです。
パート労働者として働いているのに、勤務時間は月140時間以上であるといった方も多く、正社員と変わらない勤務時間なのに給与面に差が発生すれば、この賃金格差は何が理由なのか?と疑問さえ出てくることになります。
介護業界そのものが、他の産業より低賃金の水準であることは以前から指摘されています。
低賃金の理由として挙げられるのが非正規雇用の拡大ですが、そもそも非正規雇用とは育児や家事と仕事を両立したいと考える主婦層などが就業できるようにするための雇用形態だったはずです。
それまでは正規として雇用していた枠を非正規雇用として雇うことになり、全体の半分以上が正規雇用と同じ労働時間なのにパート扱いという状況となっています。
非正規雇用が拡大しても、賃金は正社員と同じではなく、あくまでも正規ではない理由で賃金格差を生んでおり、さらに低賃金化も進行させています。
非正規のほうが事業者にとってはメリットが高く、安く労働力を獲得できます。確かに短期的に見れば事業者にとってメリットに感じるでしょうが、労働環境の悪化は人材の定着につながらず、離職者を増やすなど人手不足を加速させるリスクを高めます。
今の介護業界はこの非正規雇用の拡大により、低賃金化や人材不足を招いていると考えられており、それが今回の働き方改革による同一労働同一賃金につながっているといえるでしょう。
ただし同一労働同一賃金は、正社員と非正規雇用の社員が同じ条件で勤務しているときに成り立つものです。
正社員だけが責任の重い仕事を担い、技術や知識を要求される業務を行っているのに、単に労働時間が同じという理由で非正規雇用の方と賃金が同じなら、今度は正社員から不満がもれることも考えられるでしょう。
現場のモチベーションを下げることになる可能性もあるので、そのリスクも踏まえて検討が必要なのかもしれません。