スイスの公立による老人ホームなどの介護施設は、全般的にアメニティーが高いことが特徴であり、何不自由なく生活しているように見えます。
人口10万人強のヴィンタートゥア市の市営老人ホームなどは、交通の利便性が高い市内にバランスよく点在しています。ホームの敷地内にも施設利用者だけでなく一般の方も利用可能となっているレストランや美容室、保育園などが併設されており、入居者も自活能力に合うサービスを選択できるので自炊も可能ですしペットを連れて入居することもできます。
快適な生活という部分では文句なしと感じられますが、外国出身の高齢者への対応に問題が出ているようです。
数年前までスイスに移り住んでくる方は多くが若い世代だったので、外国出身の方は親を老人ホームなどの介護施設には預けることなく、自らで世話を行っていました。それは施設に入居させるのではなく、自分たちで面倒を見るという国の文化的な背景があったからです。
しかし最近では外国出身の家庭の子が親の面倒をみることが難しくなっており、老人ホームに入居することも多くなっています。
スイスで生活する外国人高齢者で圧倒的に多いのはイタリア人ですが、ドイツ語が理解できない方たちも含まれています。
ドイツ語がわからないイタリア人が入居した場合には、施設内でのコミュニケーションに支障がでることとなります。イタリア語の会話が可能である介護スタッフを増やせば問題ないでしょうが、日本と同じくスイスも介護スタッフが不足しており、イタリア語を話すことのできる介護スタッフを採用して適所に配置することは簡単なことではありません。
そこで、入居者を対象としたドイツ語講座などを開催し、入居者のドイツ語力を向上させる老人ホームなどもあるようです。
しかし長くドイツ語圏に住んでいるのに、様々な理由でドイツ語を習得できなかった方が、高齢になり脳の機能も低下している状態でドイツ語の語学力を伸ばすことは容易ではないでしょう。
言葉に問題のない入居者にとっては老人ホームでの暮らしは快適かもしれません。
しかし食事は基本的にスイス人の高齢者に合う献立なので、スイスとは異なる食生活だった方にとっては慣れ親しんだ味や食事を取ることができなくなってしまいます。
一時的なことであれば我慢できても、恒常的に続くことに不満を抱くことになるでしょうし、故郷への憧憬が強くなり文化や習慣の違いが辛いと感じてしまうこともあるのかもしれません。