建設業界は、建設会社が元請、第一次、第二次、第三次下請が専門工事会社というような生産の重層下請構造となっていることが一般的です。
4~5次下請という請負構造は当たり前で、国土交通省が実施している重層下請構造実態調査では、作業員4,000人超の建設現場の6割以上は下請次数が5次以上になっているとも公表されているほどです。
仮に元請となるゼネコンが下請に2次までの業者のみが現場に入場できることになっているという契約をした場合でも、3次の下請が2次の名称の入ったヘルメットをかぶって作業着を着用し、施工台帳の労働者名簿にも2次の作業員として記載されていたら、元請の現場所長も2次の労働者だと信じることになるでしょう。
ただ、このような場合には労災事故や賃金不払いなどの問題が発生したとき、はじめて3次や4次の労働者だったことが判明することになってしまいます。
問題視されることが多い建設業界の重層下請構造ですが、注文を行う顧客側にとっては責任体制が一貫している面でメリットがあります。
ハウスメーカーが工事を顧客から請負って自社の下請に仕事を依頼することで、責任の所在がハウスメーカーに集約されます。さらに顧客は注文した内容のすべてをハウスメーカーの担当者と打ち合わせすればよいことになるため、仮にクレームなどがあっても窓口が一本化されるからです。
ただ、作業を実際に行う下請にとっては、請負構造の重層化でなかなか入金がされず、資金繰りが悪化しやすいといった問題を抱えることになります。
さらに重層化が進めば間接経費が増えるので、下請への労務費が圧縮・削減となりやすくなるのも問題です。
このような重層下請による請負構造はなくし、無駄のない価格での建設生産が実施されることが望ましいといえるでしょう。
単価が低ければ手抜き工事を誘発することになるでしょうし、作業にあたる職人の生活を脅かすことになります。
本来、建設工事で作業を行う職人は、よいものを作り施主に喜んでもらうことを生きがいとしているはずなのに、この思いを現在の建設業界の請負構造が奪ってしまっていると考えられるでしょう。
労災事故などの問題もあり、今後建設業界でこの重層下請構造が続くことは望ましいとはいえません。今後、どのような取り組みを国が行っていくのか、その動向を見守る必要がありそうです。