運送業者は、顧客から預かった荷物を送り先に届けることを仕事とします。
しかし、運送途中で荷物を紛失してしまった場合や、破損してしまった場合、損害賠償責任を請求されることとなるでしょう。
送り主と運送業者の間では契約関係が認められることが理由といえますが、では荷物の所有者が送り先にあった場合、荷物紛失や破損に対する賠償責任はどのような扱いになるのでしょう。
そこで、運送業者の荷物紛失における責任や、損害賠償責任の範囲について解説していきます。
宅配便には、宅配企業ごとに約款が用意されています。
通常の宅配便の場合、損害賠償額の上限は30万円となっているものの、運送業者の故意や重過失の場合にはこの上限額を超えた賠償の対象となります。
荷物の送り先が荷物所有者であるケースにおいて、荷物の紛失・破損などの責任はどうなるでしょう。
たとえば商品の修理を依頼し、修理業者が修理完了させた商品を発送するケースなどが該当します。
この場合、過去の最高裁判決では、運送業者に故意・過失が認められれば賠償責任があると判断しています。
ただし荷物を受け取る荷受人も宅配便を利用することを容認していた場合には、荷受人と運送業者間では契約関係がないものの、約款の趣旨から原則30万円までしか賠償義務がないとしています。
荷物の送り先である荷受人と、送り主である荷送人の法的関係なども検討する必要があり、ケースバイケースで判断が必要になると考えられます。
債務不履行責任と不法行為責任の違いについても理解しておくことが必要ですが、過去に貴金属を宅配便で送ったところ、運送途中で紛失されてしまったために宅配会社に賠償請求したケースもあるようです。
しかし運送約款には賠償額30万円までであり、宝石類は引き受けの拒絶の旨が記載されていました。
この争いでは、一審地裁で一部請求が認められたものの、二審と最高裁では請求が棄却されています。
その理由として、損害賠償額を責任限度額の範囲内に限定しなければ、限度額を定めた意味がないことが挙げられます。
また、賠償を限度額の範囲に限った場合でも、運送会社の故意や重大な過失が認められれば、不法行為による損害賠償は可能となるため問題ないとの判断によるもののようです。
債務不履行に基づく責任と不法行為による責任を明確に区分しており、債務不履行責任は運送の契約に付随する責任で、不法行為責任は契約関係がない場合でも成立する責任といえます。
どちらの責任に該当するのかについて、故意または重過失の有無で分けて判断されています。