運送物流業情報ラボTransportation Logistics Information Lab

物流会社が知っておきたい運送中の貨物の全損に対する賠償責任の所在

2019.11.02
分類:リスク

国土交通省による標準貨物自動車運送約款では、貨物すべてが滅失してしまった場合の損害賠償額は、貨物を引き渡すべきだった日の到達地の価額により定めるとされています。

これは、運送中に貨物が全損してしまうと、自動車運送事業者が時価で貨物の賠償責任を負うことになることを示しています。

この時価とは、メーカーが部品製造業者から部品や材料を調達するときの仕入価格であったり、メーカー工場からメーカー倉庫に運ばれる製品の生産原価だったり、メーカーから卸売事業者に対する売値であるといえます。

いずれの場合でも、自動車運送事業者は貨物のすべての金額に対する賠償責任を負わなければならないこととなるのです。

日本以外の国の賠償責任への考え方

たとえばスイスとデンマークを除く西ヨーロッパなどでは、自動車運送事業に対する賠償責任限度額を1キロあたりや1トンあたりの金額で定められていたり、1事故あたりの最高限度額を定めていたりする国もあります。

米国国際海上物品運送法での運送人の責任限度額も、運送品1梱包、または1単位あたりによる金額が定められていますが、日本の場合は運送人の損害賠償限度額は国際間輸送のときだけに適用されます。

しかし欧米では、国際間輸送と国内輸送で金額は変わってきますが、運送人の損害賠償額に対する上限を設けています。

日本以外では、運送人の故意または重大な過失で起きた事故以外では限度額の範囲で賠償責任を負うことが一般的なのです。

 

欧米と日本では何が違う?

欧米の自動車運送事業者で損害賠償に対する限度額を設けることが適切だと考えられているのは、物流事業者が役務の対価として受け取る収入と責任のバランスへの認識が日本とは異なるからなのかもしれません。

貨物を破損させた者が弁償して当然ではないかと思うかもしれませんが、日本では運送中に貨物が全損すれば自動車運送事業者が時価でその貨物に対する賠償責任を行うことは、自動車運送業者にとって大きな負担となります。

賠償しなければならない金額を転嫁させようとすれば、賠償責任保険などに加入し、その保険を提供する損害保険会社に受け皿になってもらうしかないのが現状といえるでしょう。

 

万一に備えてカバーできる備えも必要に

物流業界では様々な要因が影響し、荷物を破損させてしまうこともあるかもしれません。ただ、たとえば陸上運送については現在の商法では過失を免責とすることが認められていても、標準約款では通常の過失では責任を負うことになるとされています。

万一に備えて、一定の災害や賠償責任などについてカバーできる備えが必要になるといえるでしょう。