運送物流業情報ラボTransportation Logistics Information Lab

運送業者が負う不法行為などの責任は約款で守られる?

2017.06.23
分類:その他

運送業にも様々な種類がありますが、宅配便など物品運送で万一品物が紛失した場合など、宅配業者はどのような責任を負うことになるのか、商法上の責任について考えていきましょう。


商法から見た場合の宅配業者の責任は?
商法では宅配業者は「運送人」、宅配業者に配送を依頼した人は「荷送人」、配送先は「荷受人」になります。
商法577条によると、運送品が滅失毀損した場合、宅配業者である運送人が運送品を扱う際に注意を怠らなかったことを証明することができない場合、損害賠償責任を負うと規定されています。
一般的な民法の債務不履行責任と同様であると解釈されますので、特別重い責任というわけではなく、注意を怠ったことによる賠償は当然という考え方でしょう。


高価品と知らなかった場合は責任を負う必要はない
ただし運送人について高価品についての特則が設けられています。
商法578条によると、貨幣や有価証券、その他高価品は、配送を依頼する荷送人が運送を委託する際に運送品の種類や価額を明告していなければ運送人は損害賠償の責任を負わないことが規定されています。
そのため運送人が高価品であることを知らずに配送を引きうけていた場合には、途中で紛失などトラブルがあっても運送人が損害賠償責任を負うことはないと言えるでしょう。
なお、これらは商法の任意規定であり、運送契約上に別途約定が交わされていればそっちを優先することになります。


宅配業者がリスクを抑えることができる内容の約款とは?
宅配業者がリスクをなるべく回避できる内容を約款に組み入れるなら、故意や過失を問わず責任免除にすることが良いでしょう。しかし公序良俗や信義則に反することから効力は認められない可能性が高いと考えられます。
そのため賠償責任を負うことを前提として、金額の限度など責任制限の範囲を決めておくと良いでしょう。


不法行為への賠償責任について
約款は契約責任を規定しますが、契約関係上の運送人と荷送人の間でも要件が満たされる場合は不法行為に基づく賠償責任を負うことになります。
不法行為とは、他人の権利や利益を違法に侵害する行為のことであり、加害者に対する損害賠償を負わせる法制度のことを言います。一般的に権利侵害、故意過失、違法性、損害と因果関係などを満たすことで不法行為と判断されるでしょう。
しかし、契約当事者ではない人に不法行為が成立すると、約款の効力はどうなるのでしょう。


約款は第三者には効力が及ばない
物品運送の場合には、依頼を受ける運送人、配送を依頼する荷送人、そして荷受人や物品の所有者など色々な人が関係してきます。そのため損害を被る人は荷送人とは限らないということになります。
約款は契約した当事者のみを拘束するものであり、第三者に効力が及ぶことはありません。
そのため第三者の損害で不法行為に基づいた損害賠償請求があっても、約款の効力は発揮しないと言えるでしょう。


運送業者が負う可能性がある賠償責任について知っておくこと
このように運送業者が負う賠償責任についてしっかりと理解しておく必要があります。
なお、運送業務で荷送人以外の存在は予定されているものであるため、対象となる人によって約款で守られるかどうかが異なるのは運送人にとって酷だと言えるでしょう。
万一損害賠償請求された状況に備えて、賠償責任のリスクに対する備えも必要になると考えられます。